和紙のQ&A:手漉き・機械漉き和紙で値段が違うのは何故ですか?
2017年05月13日
*****日本の和紙について分からない事にお答えする「和紙のQ&A」*****
「手漉き和紙は高価」というのはよく聞きますが、一体なぜなのでしょうか?今回は、手漉きと機械漉き和紙の価格差が生まれる理由を「製造工程」や「原料の違い」を交えながらご紹介。また、必ずしも手漉きがすべて良いというわけではない理由についても解説します。
制作工程から生まれる価格差
手漉きの主な工程
手漉き和紙をご覧になったことがある方も多いかと思いますが、手漉きは簀桁(すけた)という道具を使って職人さんが1枚1枚漉いています。1日に漉ける枚数は、厚みにもよりますが菊版で300枚前後です。
漉きあがって重ねた物を専用の道具で余分な水分を取っていきます。その後、金属製の乾燥機による乾燥か、もしくは昔ながらの板に貼り付けて天日乾燥を行って完成します。手漉き和紙には4辺に特徴的な耳ができ、板干しの場合は和紙の表面に薄っすらと板の目が見える事もあります。
機械漉きの主な工程
機械漉き和紙は、洋紙ほど速く漉くことはできませんが、均一な和紙を大量に漉くことができます。
製造時には繋がった状態で漉かれていて、乾燥後に巻き取ってロール状にしています。あまり大きいと出荷し難いので和紙にもよりますが、大体50~100m巻きでまとめられる事が多いです。2辺に手漉きほどではありませんが、同様の耳が出来ます。安価な和紙ほど機械の速度を上げて漉く(漉ける)ため、1日に漉ける枚数は種類や厚みにもよりますが、菊版換算で2万枚以上にもなります。
製造工程をかなり省略して説明しましたが、このように機械漉き和紙は大量生産が可能なので1枚あたりの単価が安く、その結果、手漉き和紙と機械漉き和紙の値段に大きな差が生じるのです。しかし、これは一般的な話で、実際にはその先があります。
機械漉き和紙でも、耐久性に優れた上質なものもある
日本の中でもごく限られた機械漉き和紙メーカーさんで、地元産の上質な原料に拘り、化学薬品を一切使わずに漉いている所があります。漉きあがった和紙を見ると自然な艶感、透き通るような透明感や繊維の強さが感じられます。また、一般的な機械漉き和紙とは異なり、非常にゆっくりとした速度で漉く必要があるため、大量生産はできません。
和紙業界では、上質な和紙をカッターで切ると「シャーと高く澄んだ音が出る」と言われていますが、この和紙はまさにそんな音がします。弊社のブログ記事「10年以上張り替えいらずの障子紙!本物の和紙はこんなにも違う」では、この機械漉き和紙についてさらに詳しくご紹介しています。ぜひご覧ください。
原料からも生まれる価格差
和紙の原料である楮を例に挙げると、原木100に対してわずか4%程度しか紙の原料として利用できません。一方、洋紙の原料となる木材パルプは、原料100に対して90~95%、純度の高い化学パルプでも50%程度は利用可能です。
和紙の原料は、原料の単価(国内産、海外産でも大きく変わります)に加え、利用できる量が少なく、紙を漉ける状態にするための処理に手間と時間がかかるため、原料だけ見ても洋紙に比べて高価になります。
手漉きだから良いとは言えない。その理由
一方で手漉き和紙であっても、価格を抑えるために原料を化学薬品で漂白し、製造工程を簡略化して漉かれたものもあります。そのほかにも海外産の原料や、洋紙の原料であるパルプ(混入比率を増やす等)を入れた、お値打ち感のある和紙も市場では出回っています。
誤解の無い様に言いますと、最も大切な事は用途に合わせて最適な和紙を選択する事なので、どの和紙が良い悪いという訳ではありません。安くても表情や質感が面白い和紙もありますし、何より気軽に使える事が嬉しいですよね。是非色々な和紙に触れて頂きたいなと思います。
つまり「機械漉き=安価な和紙」というイメージがありますが実際のところ、そうとは言い切れないのです。
弊社では和紙の品質を見極める際、手漉きか機械漉きかといった製法だけでなく、原料の種類や処理方法に着目しています。また、染色や加飾などの加工を自社で行っているため、加工時に和紙の品質の良し悪しが明確に現れる場合もあります。
※参考記事:
和紙初心者の方でも安心して購入できるよう、和紙の購入場所や選び方のポイントについて解説。
手漉きと機械漉き和紙、それぞれの強みや、製法による見た目の違いを解説。
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著者/この記事を書いた人
浅倉紙業株式会社(Asakurashigyo Corporation)
浅倉敏之
石川県金沢市にある明治30年(1897年)創業の和紙専門店です。自社工房で制作する染色・創作和紙をはじめ、和紙インテリア製品や和紙小物など、幅広い和紙製品を取り扱っています。お客様のご要望に合わせたオリジナル製品の企画・制作も承っております。詳しくはこちらの記事をご覧ください。