紙あさくらのはじまり

初めまして、浅倉紙業4代目の浅倉敏之です。幼い頃の記憶として、紙を切る機械のガタンガタンという音、端切れやクズ紙などで遊んでいたのを覚えています。夏休みには、和紙の工作を提出して入賞したこともありました。生まれてこの方、私の暮らしは和紙とともにあります。

この度コラムページ「和紙のある暮らし」を開設したことを機に、いま一度なぜ私たちが和紙と暮らしにこだわるのかをここに書き留めておきたいと思います。

紙あさくら

個人的に好きな和紙は富山県、五箇山の悠久紙。実際に工房を訪ね製作現場や職人さんのことを知り、思い入れのある和紙です。(上の写真の和紙ではありません)

紙あさくらのはじまり

浅倉紙業は1897年、岡山で和紙の産地問屋として創業。金沢に来たのが1967年で、私の曽祖父母の時代から金箔に使う箔合紙(はくあいし)などを販売していました。ひたすら枚数を数え、裁断し、納品する繰り返し作業・・・それに飽々した母は「オリジナリティのある新しく価値あるものを、楽しく生み出していきたい」と3代目である父に相談。「元々先代が扱っていた和紙を販売してみては」という助言もあって、1986年、私たちは紙あさくらとして和紙販売をすることになったのです。

和紙を学び、津々浦々

全国の和紙マップ, 紙あさくら

全国の和紙の名産地が書かれた地図

歴史ある紙業の家に嫁いだ母にとって、和紙の世界に入ることは身の引き締まる思いだったよう。思い立ってから10年間はひたすら勉強の日々で、父もそれを前向きにサポートしていたそうです。日本各地の職人さんや、問屋を巡り、良いものには惜しげもなく投資をする。はじめは予算も限られていたので、いい和紙を買って、売れてはまた次の和紙を買ってという風に少しづつ。そうして集めた全国の珍しい和紙がショールームの2階で販売されています。

紙あさくら, 全国の和紙

埼玉県の流泉紙

岡山県の王朝継ぎ紙

水引や和紙の小物販売からスタート

紙あさくらのスタートとして、まずは水引、和紙でオリジナル小物を作りました。それらを持って営業に行くのですが、そう簡単にはいかず・・・門前払いを受けることも。小さい私を連れて行くこともあったそうで、今でもお客様を尋ねると「敏之くん大きくなって」と言われることがありますが、私自身さすがに覚えていません(笑)

しかし、私たちはご縁に恵まれていました。県内の呉服屋さんが和紙小物を扱ってくださり、金沢駅の店舗で販売。多くの方々が手に取っていただく機会に。この時にお客様の声を参考として、様々なもの企画、製作した経験は、私たちの大きな自信になりました。

和紙小物, 香り袋, 紙あさくら

紙あさくらがスタートしてから今も販売している香り袋。

和紙は歴史があるから面白い。固定概念に囚われず、たくさんのアンテナを張って新しい組み合わせや、新しい和紙のあり方を考えます。ガラスや、陶器など、違う素材の作家さんの展示会を訪ねては「これを和紙で創ったらどうなるだろう」ということから着想を得ることもあります。

作業人として、新しく面白いものを創る

オフィスの玄関には、15年前に金沢のアートフェア用に制作した端切れを合わせたタペストリーが掛かっています。来客するお客様からは「素晴らしいアート」と言われることもありますが、私たちがこれをアートというのはおこがましいと考えます。

一枚に端切れを張っているのではなく、端切れを繋ぎ合わせて大きな一枚のタペストリーに。

ゼロから1を生み出すようなアーティストの方々と仕事をする中で、私たちは彼らのようにはなれないし、なりたいわけではないと分かりました。私たちの強みは、和紙の広く深い知識と、和紙を扱う技術。黒子に徹し、作業人として、ただただお客様に喜んでもらえるものを創っていきたいのです。

紙あさくらの創作和紙制作風景

気軽に暮らしに取り入れられる和紙アートパネル

和紙は別になくても良いものだけど、あったら和む。洋紙の美しさもありますが、日本人にとって日本の素材を使って作った和紙は、遠い記憶を呼び醒ますものがあるのではないかとも思います。そんな想いもあって、気軽に暮らしに和紙を取り入れられるものを創ることができないかと考えました。それを形にした一つが、和紙アートパネルです。

墨書入り和紙インテリアアートパネル、二枚組み合せ(インテリア設置時)

墨書入り和紙インテリアアートパネル、二枚組み合せ

もっと和紙で挑戦を

父が亡くなってから14年が経ちました。紙あさくらは今や、元々の浅倉紙業よりも会社にとって大きな比重をしめるようになっています。つみあげていくことも大事ですが、守りに入るのではなく、時代に合わせ変化し挑戦する機会をくれた父には心から感謝しています。

今の私たちだからできることで、お客様に喜んでもらいたい。これからも、紙あさくらの新しいプロダクト、和紙のある暮らしの提案楽しみにしていてくださいね。

紙あさくら, 和紙小物

和紙花(カサブランカ)

写真(アートパネルの写真を除く): Nik van der Giesen

2019年10月25日/紙あさくらのはじまり
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