和紙のQ&A:手漉き和紙の乾燥方法「板干し・鉄板乾燥」仕上がりの違いとは?

*****日本の和紙について分からない事にお答えする「和紙のQ&A」*****

 

手漉き和紙の製造工程における乾燥方法には「板干し」と「鉄板乾燥」の2種類があり、それぞれに特徴があります。乾燥方法の違いと、仕上がる和紙の性質の違いについて解説します。

 

手漉き和紙の乾燥方法

 

伝統的な「板干し」

 

晴れた日に紙漉きの産地を訪れると、大きな板に白い紙が貼り付けられ、天日干しされている光景を目にすることがあります。周囲の緑に映える白い紙は、とても美しい光景です。

 

製造時における伝統的な和紙の乾燥方法「板干し」

 

しかし、この美しい光景の裏には、一枚一枚「紙つけ刷毛」を使って干し板に貼り付け、天日で乾かすという、気の遠くなるような重労働があります。干し板は約10キロ前後ほどの重さがあり、乾いたら取り込んでまた次の干し板を外に出します。天候に左右されるため、梅雨時期など、雨の日が続けば作業が滞ってしまうこともあります。乾燥中の紙が雨でぬれるとシミができたり、カビが生えたりする可能性もあるため、ひと時も目を離せません。

乾燥時間は夏場は1時間ほど、冬なら半日程で干せます。干しあがった和紙には、薄っすらと木目が転写され、独特の風合いがあります。板干しした和紙はこちらの記事でご覧いただけます。

 

天候に左右されない「鉄板乾燥」

 

そこで登場したのが「三角乾燥機」を使った鉄板乾燥です。三角形の鉄板に紙を貼り付け、中に蒸気を送り込んで鉄板を温め、紙を乾燥させます。かつては鉄板が錆びて紙に悪影響を与えることもありましたが、現在ではステンレス板を使用することで、その心配もなくなりました。

 

三角乾燥機による和紙の乾燥工程

 

形状は三角以外にも一面や二面のものなどがありますが、三角乾燥機は効率も良いため、最も多く見られます。鉄板乾燥の最大のメリットは、天候に左右されず、場所も取らずに効率的に乾燥できることです。そのため、現在ではほとんどの手漉き和紙が、この方法で乾燥されています。

 

板干しと鉄板乾燥、それぞれの違いとは?

 

板干しと鉄板乾燥では、出来上がる和紙にどのような違いがあるのでしょうか?

 

1.紙のしなやかさ

 

板干しで乾燥させた和紙は、鉄板乾燥のものに比べて、しなやかさが増します。これは、乾燥温度の違いによるものです。鉄板乾燥は高温で行われるため、紙に残る水分が少なくなり、硬くなってしまうのです。長時間放置すれば、両方の紙の水分率は同じになりそうですが、実際にはそうはならず、この違いはいつまでも残るようです。

 

2.紙の強度

 

板干しで乾燥させた和紙は、鉄板乾燥のものに比べて、強度があります。紙の原料である植物繊維は、水に濡れると膨らみます。それを板や鉄板に貼り付けて乾燥させると、繊維が収縮し、強度が生まれます。

板と紙は、どちらも植物由来の素材であるため、収縮率がほぼ同じと言われています。そのため、紙が乾燥する際に木の板と一緒に収縮し、無理なく水素結合が行われ、強い紙になるのです。

一方、鉄板は紙と収縮率が違います。特に鉄板乾燥機では温度が一定に保たれるため、紙だけが収縮しようとします。その結果、紙の組織の一部が壊れ、水素結合が十分できず、板干しで乾燥させた和紙と比べると、弱い紙になってしまうのです。

 

まとめ

 

普段あまり知る機会のない乾燥方法ですが、他にも使用する原料の種類や産地、原料の処理方法などによって、実に様々な性質の和紙が出来上がります。たくさんの情報を知れば知るほど、どの和紙を選べばよいか迷ってしまうかもしれません。もし和紙選びに迷ったら、求める質感や予算など「外せないポイント」と「使用目的」を明確にしておくと、希望とする和紙を見つけやすくなります。

 

 

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著者/この記事を書いた人

浅倉紙業株式会社(Asakurashigyo Corporation)
浅倉敏之

石川県金沢市にある明治30年(1897年)創業の和紙専門店です。自社工房で制作する染色・創作和紙をはじめ、和紙インテリア製品や和紙小物など、幅広い和紙製品を取り扱っています。お客様のご要望に合わせたオリジナル製品の企画・制作も承っております。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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