和紙のQ&A:なぜ手漉き和紙は少なくなってしまったのでしょうか?
2018年09月05日
*****日本の和紙について分からない事にお答えする「和紙のQ&A」*****
日本の伝統工芸品として、書道や絵画、工芸品など様々な用途で愛されてきた手漉き和紙。しかし、その生産量は増加するどころか減少の一途をたどっています。一体なぜ、手漉き和紙は少なくなってしまっているのでしょうか?今回は、その背景にある要因をいくつかご紹介します。
手漉き和紙減少の要因
後継者不足
手漉き和紙の製造は、熟練の技術と長年の経験を必要とする非常に手間のかかる作業です。しかし、その技術を継承する若い世代が減少しており、深刻な後継者不足に直面しています。
その要因の一つとして、技術習得の機会が限られていることが挙げられます。多くの工房が家族経営であり、後継者を育てる余裕がない場合も少なくありません。また、後継者育成には時間と費用がかかり、多くの工房にとって大きな負担となっていることも、後継者不足に拍車をかけています。
機械漉き和紙の普及
大量生産が可能な機械漉き和紙の普及も、手漉き和紙の需要減少に拍車をかけています。私たちが普段手にしている「和紙」と呼ばれるもののほとんどが、実は機械漉きです。機械漉き和紙は、手漉き和紙に比べて安価で安定した品質を保つことができるため、商業用の印刷物や包装紙など、大量消費される分野でも広く利用されています。しかし近年、機械漉き和紙も原材料の高騰や価格競争などの影響を受け、廃業に追い込まれるケースが増加しています。
ライフスタイルの変化
現代のライフスタイルの変化も、手漉き和紙の需要減少に影響を与えています。洋風建築の増加やデジタル化の進展により、障子や襖、書道用紙など、伝統的な和紙の用途が減少しています。また、和紙の定義が広がり、多様な「和紙風」商品が出回るようになったことも、手漉き和紙の需要を低下させていると考えられます。生まれてから一度も本物の和紙に触れたことがない方も珍しくなく、こだわりをもって漉かれた手漉き和紙が埋もれてしまっているのが現状です。
コストの高騰
和紙原料の価格高騰や光熱費の上昇は、手漉き和紙の価格上昇に直結しています。その結果、本物の手漉き和紙は手軽に購入できるものではなくなり、需要の減少に拍車をかけています。
また、原料を海外産原料や洋紙原料の木材パルプなど安価なものに切り替えても、大量生産によるコスト優位性を持つ機械漉き和紙との価格競争にさらされます。結果として、手漉き和紙職人は「本物を作っても売れない、安い物を作れば売れるけど、本来の和紙からかけ離れたものになる」というジレンマに直面しています。
手漉き和紙の未来を守るために
今回は、手漉き和紙が少なくなってしまっている背景には、様々な要因が複雑に絡み合っていることをご紹介しました。しかし、こうした困難な状況を乗り越え、伝統を守り続ける和紙職人たちが今もなお日本各地で活躍しています。彼らの漉く一枚一枚の和紙には、長い歴史と熟練の技、そして和紙への深い愛情が込められています。
弊社は和紙専門店として、職人たちが丹精込めて漉き上げた和紙の魅力をより多くのお客様にお伝えし、日本の伝統工芸を守り、未来へと繋いでいきたいと考え様々な取り組みを行っています。手漉き和紙の温もりや風合い、そしてその歴史に触れていただき、和紙のある暮らしを楽しんでいただければ幸いです。
※参考記事
日本全国にある和紙の産地の一覧と、それぞれの地域の代表的な和紙についてご紹介。
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著者/この記事を書いた人
浅倉紙業株式会社(Asakurashigyo Corporation)
浅倉敏之
石川県金沢市にある明治30年(1897年)創業の和紙専門店です。自社工房で制作する染色・創作和紙をはじめ、和紙インテリア製品や和紙小物など、幅広い和紙製品を取り扱っています。お客様のご要望に合わせたオリジナル製品の企画・制作も承っております。詳しくはこちらの記事をご覧ください。