和紙のQ&A:和紙はなぜ環境にやさしいのですか?

*****日本の和紙について分からない事にお答えする「和紙のQ&A」*****

 

二俣和紙を漉いている姿(斎藤博 さん)

 

現代社会において、環境への配慮は避けて通れないテーマとなっています。私たちが日常的に使用する紙も例外ではなく、その生産過程や原料が環境に与える影響は無視できません。そんな中、日本の伝統的な紙である「和紙」は、環境に優しい素材として注目を集めています。一体なぜ和紙は環境に優しいのでしょうか?この記事では、その理由について詳しく解説していきます。

 

はじめに

 

今回ご紹介する内容は「伝統的な製法」または「それに準ずる製法」によって漉かれた和紙についてのものです。近代的な製法で作られる和紙の中には、海外産の原料や洋紙原料の木材パルプ、化学薬品などを使用するものもあり、ここでご紹介する内容とは一部当てはまらない場合がありますので、ご注意ください。

 

和紙が環境によい理由

 

再生可能な植物資源の活用

 

和紙の主な原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった植物です。これらの植物は成長サイクルが早く、持続可能な形で収穫することができます。例えば、楮は1年に2~3メートルも成長し、毎年収穫が可能。伐採後も再び芽を出し、刈り取った株であっても数年は収穫ができます。三椏や雁皮は、楮よりも成長の遅い植物ですが、それでも約2~3年で収穫が可能です。このように、和紙の原料となる植物は伐採しても環境破壊にはつながりません。一方、洋紙原料のパルプ材の場合は、成長スピードが早いものでも約7~8年かかり、伐採と植林のバランスを保つことが不可欠となります。

 

製造時に化学薬品の使用量が少ない

 

和紙の製造過程では、化学薬品の使用が抑えられています。伝統的な製法では、原料を煮るのに草木を焼いて出来た「草木灰(そうもくばい)」が使われていましたが、現在では石灰、ソーダ灰、苛性(かせい)ソーダが主流となっています。草木灰や石灰、ソーダ灰は、繊維を傷めにくいマイルドなアルカリ煮熟剤です。一方、洋紙の製造には、強いアルカリ性の苛性ソーダをはじめ、漂白剤やサイズ剤など、さまざまな化学薬品が使用され、水質汚染が問題視されています。

 

長い寿命とリサイクル性

 

和紙は洋紙に比べて耐久性に優れ、長く使うことができます。また、原料が全て植物なので、再び原料に戻して漉き直しすることが容易にできますし、土に埋めれば自然に分解されます。一方、洋紙の場合、古紙の再生利用には脱墨剤(だつぼくざい)や漂白剤などの化学薬品が必要となり、水質汚染が問題視されています。

 

「和紙=環境に優しい」は本当?

 

伝統的な製法で作られた和紙は、その原材料やリサイクル性から環境に優しいと言われています。しかし、現代の和紙の多くは、原料に木材パルプを使用したり、化学薬品を使ったりと、必ずしも環境に優しいとは限りません。さらに、原料の多くは海外からの輸入に頼っており、せっかく環境に良い和紙なのに、輸入に伴うCO2排出や森林資源の消費といった問題も抱えています。

これらの状況を踏まえると、国内で漉かれる上質な和紙は必然的に「環境に優しい」と言えますが「和紙=環境に優しい」という認識は必ずしも正しいとは言えません。もし環境に優しい和紙を選ぶのであれば、国内原料の使用、産地、製法などをよく確認する必要があります。また、環境に優しい和紙を選ぶことは、結果的に日本の伝統的な和紙文化や産地を守ることにもつながると弊社では考えています。

弊社では、伝統的な製法で作られた「本物の和紙」を取り揃えております。環境にも優しく、日本の伝統文化を支える和紙の温もりを、ぜひ一度お手にとって感じていただければ幸いです。

 

※参考記事
現代においての和紙の定義は、かなり網羅性のあるものです。本物の和紙を選ぶ際に、知っておくと役立つ情報です。

 

 

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著者/この記事を書いた人

浅倉紙業株式会社(Asakurashigyo Corporation)
浅倉敏之

石川県金沢市にある明治30年(1897年)創業の和紙専門店です。自社工房で制作する染色・創作和紙をはじめ、和紙インテリア製品や和紙小物など、幅広い和紙製品を取り扱っています。お客様のご要望に合わせたオリジナル製品の企画・制作も承っております。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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