和紙DIYリノベーション2
2021年12月25日
前回の「和紙DIYリノベーション」の記事に、多くの反響があり「自宅の砂壁にも和紙を貼ってみたい」「プラスチックにも和紙を貼ることはできるのか」などの問い合わせがありました。今回は、空き家を購入し、DIYでリノベーションされていた石川県金沢市在住の安田さん、Nikさんご夫妻の和紙DIYをアドバイスさせていただくことになり、その体験談をご紹介します。
こんにちは。浅倉紙業4代目の浅倉敏之です。このコラムでは、和紙を暮らしに取り入れる様々なアイデアについてご紹介しています。
以前は町家の賃貸にお住まいで、古い物など人の気配がするものが好きとお話しされていたのは、元歌手で現在観光業のお仕事をされている安田奈央さん。夫のNikさんはオランダ出身のフォトグラファーで、日本の自然、文化、美意識に興味があり、日本で暮らして約10年になるのだとか。賃貸では空間づくりに限界を感じ、築60年の空き家を購入されたお二人。老朽化に加え、雨漏りによる傷みも酷く、すぐ住めるような状態ではなかったそう。水周りや、ガス、電気の大掛かりな部分はプロにお願いし、できる限りのことはDIY。和紙をたくさん活用いただいたということで、その体験談を伺っていきましょう。インタビュー形式にてお届けします。以下、紙あさくらをA、安田さんをYと表記します。
ライフスタイルに合わせた障子紙を
A DIYリノベーションされたご自宅では大小合わせて、40枚もの障子戸があったそうですね。かなりの枚数ですね(笑)
Y 障子戸から入る光が美しいなと思ったのがこの家に決めた理由のひとつでした・・・が、この40枚の障子貼りはまるで修行でして(笑)破れてボロボロの古い障子紙に、霧吹きをして剥がすところから時間がかかりました。以前住んでいた方々によって何度か貼り直されている形跡があり、それぞれに違う紙やのりを使っていたのか、スルッと剥がれるものとそうでないものがあり苦戦しました。汚れが酷く、濡れた雑巾で枠をきれいにする作業を繰り返して、やっとのことで障子貼りです。
A 下地を綺麗に仕上げると、貼りあがりも綺麗になりますからね。根気のいる作業でしたね。初めて障子紙を貼るということ、今後猫や犬を買う可能性があるということで、ライフスタイルの変化に今後柔軟に対応できるよう、手頃なお値段で質感も良い岐阜県産 美濃の障子紙をオススメしました。貼ってみていかがでしたか。
Y 3枚目ほどで慣れてきて、ピンと貼れるようになりました。障子紙を貼った日の天候によって、雨の日のハリ具合が全然違うことには驚きました。
A 紙は湿度によって伸縮しています。今回の障子紙は特に水分を吸収しやすく、湿気の多い日には波を打ちやすいため、貼る前に霧吹きで全体を湿らせてから貼ると良いタイプの紙です。お部屋ごとに空気の流れや、室温の変化が違うため、環境に合わせて紙を選ぶことも大事ですね。
ふすまの貼り替えもDIYで
Y 障子紙を貼ることはなんとなく想像できていましたが、ふすまは本当にDIYできるのか・・・はじめは不安でした。浅倉さんのご縁から、経師職人の武田和雄(たけだかずお)さんによるデモンストレーションを見学する機会をいただき、一つ一つパーツを外すところから学んでいきました。構造をなんとなく理解し、見様見真似で貼っていきましたが、自分で手を動かして初めて武田さんがおっしゃっていた意味が少しわかった気がしました。
A ふすまをご自身で貼り替えられる方が少ないのは、工程が多く、中の構造が見えないからというところは大きいかもしれません。貼り方の説明も難しいですね。
Y 武田さんはいとも簡単にやってのけていらっしゃいましたが、私たちはメモしたアドバイスを何度も見返しながら、慎重に貼っていきました。とにかく1枚目を頑張れば、2枚、3枚と理解が深まり要領を掴んでいくことができます。
A ふすま紙には、素朴な風合いが古民家にも合いそうな高知県産 ヤケ入り純楮紙 厚口を提案させていただきました。漉き手さんの製造方法へのこだわりに共感し長く取り扱っている和紙で、経年変化も含めて自信をもっておすすめできる紙です。
Y 生成りの自然色、繊維が所々入っている紙の表情が気に入っています。
Y ふすまは13枚。源氏ふすまという中に障子が入るものが4枚あったのですが、シワがよらないようにするのが難しかったです。少しヨレてしまったところもありますが、どうにか自分で貼り替えることができました。
A すごく綺麗に仕上がっていますね。驚きました!
Y 何枚か貼っていくうちに、下地の浮け貼りの大事さを感じました。それによって表の仕上がりが変わってきます。また、のりをつけた紙をふすまにのせるところが難しく、職人の武田さんはひとりでやられていた工程は、2人でせーのと息を合わせてのせていきました。シワにならないように騙し騙しやっていきました。
Y DIYは家に愛着が湧き、いつでも自分でメンテナンスができるのは良い点ですが、仕上がりにこだわる方や時間がなかなかとれない方は、プロにお任せしたほうが良いかも知れません。ふすまは1ヶ月ほどかけてゆっくりと仕上げていきました。
A 楽紙庵で、実験的に様々な紙を貼ってみたことでもわかりましたが、何層にも浮け貼りをするなど、その紙の特性を活かし貼った良い紙は25年以上経った今でも美しいままです。職人さんの知識と技にはいつも頭があがりません。
Y やってみるとそれがどれだけ難しく時間がかかるのか身に滲みてわかりました。
端切れでDIY。雑貨のアレンジや壁の補修に。
A その他、様々なアイテムにも和紙を活用いただいたんですね。
Y 障子貼りやふすま貼りで余った端切れを、プラスチック製のランプカバーに貼ったり、床の間にパッチワークのように貼り合わせてみました。
Y 浅倉さんに教えていただいた水切りという方法で、まずは切り目を毛羽立てるように切りました。それから平らなテーブルに紙を置き、毛羽立ちを外にのばすようにして刷毛で全体にのりをつけ、貼る時はシワにならないよう内から外へ空気を逃すように貼っていきました。水のりはでんぷん糊 1: 水 2 の配分で調整しました。一度、この方法を覚えると何にでも和紙を貼ってみたくなりますね。
A 和紙は柔軟でおおらかな素材です。様々なシーンで、様々なアイテムに貼ることができるのは和紙の良さですね。
Y 端切れまで余すことなく使えるのもいいところですね。武田さんから浮け貼りの紙を購入した際に、領収書を素敵な封筒に入れて頂いたのですが、それも端切れで作ったモノということでした。紙あさくらさんのオフィスの玄関にも、端切れを繋ぎ合わせた大きなタペストリーがありますよね。すごく素敵な!
A 15年前に金沢のアートフェア用に制作した端切れを合わせたタペストリーですね。いい紙は本当に捨てるのはもったいないです。
Y 自然素材からできているいい紙を、様々なものに貼ることで、普段触れるものの手触りや、生活空間が優しい印象になったので、とても満足しています。
A 和紙の魅力を感じて頂けてとても嬉しいです。今後も何に和紙を貼れるかなと楽しく考えながら、暮らしに和紙を取り入れてみてくださいね。
今回ご紹介した和紙と道具
岐阜県産 美濃の障子紙
パルプに楮やマニラ麻を加えて漉かれた機械漉きの障子紙。パルプのみの障子紙よりも強度があり、調湿性に優れています。400円/m(税抜、幅約95cm)、1m単位で販売しています。高知県産 ヤケ入り純楮紙 厚口
貴重な土佐楮100%を使用した純国産の楮和紙です。ヤケとは、楮同士が擦れた時に出来る茶褐色のカサブタのようなもの。その繊維を一緒に漉きこむことで、楮の持つ力強さが感じられます。3,000円/m(税抜、幅約96cm)、1m単位で販売しています。でんぷん糊
紙あさくらでは、障子紙を貼るにも、ふすまを貼るにも万能なでんぷん糊をご紹介しています。和紙の質感を損ねないかつ、経年によって変色が起こらない。弊社が、30年以上つかって問題のなかった間違いのないものです。ねばりが強い高濃度タイプの糊なので、用途によってご自身で調整してお使いください。合成剤が入っているもの、ボンドなどの樹脂系接着剤は、和紙の質感を損ねる恐れがあることと、経年による変色の恐れがあるため避けた方が良いでしょう。のりを貼る刷毛は、ホームセンターで安価で売っているものや、初心者用のセットなどから初めて構いません。トレイもご自宅にあるようなケースをお使いいただけます。
セルフリノベーションの一例と、使用した和紙を紹介しましたが、それぞれの環境や理想の空間によって使用するものは変わってくるかと思います。リノベーションという観点からお伝えできることは限られますが、和紙専門店としてお伝えできることはありますので、まずはお気軽にご相談ください。これから和紙を空間に取り入れてみようと思う方の参考になれば幸いです。
写真(和紙と道具の写真を除く): Nik van der Giesen